竹澤 稔氏 イギリスのセキュリティ業界に革新を起こすセコムPLC社長

竹澤稔氏

【プロフィール】
北海道出身、1963年生まれ。1987年にセコム株式会社に入社し、フィールド警備任務の後、事業所・本社の各部署を経験。米国のビジネススクールにて経営学修士号MBA取得を経て、海外事業部に所属。2001年に渡英し、セコムが買収したイギリスのセキュリティ会社(セコムPLC)の社長として赴任。日本より歴史の長いイギリスのセキュリティ業界に日本のビジネスモデルを持ち込んで革新を起こし、現在業界第3位まで追い上げる。

 

 

海外で働けるチャンスをずっと探していた

もともと海外で仕事をしたかったですね。毎年、会社に海外駐在したいと申告していましたし、入社した時から海外で働けるチャンスをずっと探していました。入社前にアメリカの大学に1年交換留学をしていて、入社後にはサンディエゴの大学院でMBAを取得してきています。

海外で働くというのはやっぱりエキサイティングだし、絶対日本国内では味わえない経験がありそうだと見えていました。

イギリスに来る直前までは、日本の国際事業本部という海外のオペレーションをする本部で働いていました。そこで海外各社を本部からコントロールする、経営をコントロールする側にいたわけです。イギリスも出張して歩く国の一つであったんですけど、様々な国の戦略等を考えているうちに、イギリスに行ってやってこいとなりました。国がイギリスだったのはたまたまです。どこ行きたいと言って行けるものではなく、交代させるという時期にたまたまチャンスが来たんです。

 

買収先の会社にいきなり社長として送り込まれる

(セコムが買収したイギリスのセキュリティ会社(セコムPLC)にいきなり社長として一人赴任することになる。)

全てが大変でした。何百人のイギリス人しかいない中に一人、しかも社長として来たのです。私が来るまで日本人の駐在員はいましたが社長ではなく、会社設立以来トップが日本から送られてきたのは初めてです。こんな若い日本人が、何もわかっていないような感じのやつが来て、何を言い出すんだとイギリス人も戸惑っていて大変ですよ。

幸い、イギリスには地位とか組織に対するリスペクトというのはあったので、それなりのポジションと権威を持っている人間の言うことは聞くという風土があり、自分なりに最初から組織を動かせました。

 

リーダーが言っていることは正しいと証明し続ける

「このリーダーが言っていることは正しいんだ。ワークするんだ。」とならなくてはいけない。常に言っていることは正しいと証明し続けなくてはいけないです。

これで会社が勝つとずっと証明し続けないとすぐばれてしまいますからね。それは大変ですよ。気が抜けないし、説得しなければいけないし、見える形にしなければいけないです。しばらくして、我々がやろうとしていることが正しいんだということが腹の底に落ちてきたら落ち着いてきます。それまでは大変ですよ。この国は色々ルールが違うとか文化が違うとか色々言ってきます。よくわかっていないやつがピントはずれなことを言っているなと思われたら、社員はついてきませんからね。「ボスが言っているからやれ。」ではついてこないですから。やっていることが正しいと一人ひとり腹の底に落ちる、実感できる、勝算ある戦略を出さなくてはいけないです。

 

機械を売る会社からサービスを提供する会社になる

(イギリスのセキュリティ業界では、セキュリティ機械の設置、機械のメンテナンス、監視業務等を全て別会社が行うのが普通であった。セキュリティ機械の会社は機械の販売までを行い、メンテナンスはメンテナンス会社が行い、監視業務を行うのはまた別会社と、消費者にとっては不便に思えることが普通となっていた。それらを一括してできるセキュリティサービス会社としてセコムはイギリスのセキュリティ業界に革新を起こそうとしている。)

我々は機械を売っていた会社をやめて、いいサービスを売る会社になるんだと言い始めました。

そうすることによって、伸び悩んでいた契約件数が増えてきて、会社の売り上げが増えて、営業のコミッションが増えて、今まで赤字であった会社が黒字になって、業務を拡大して、自分達の会社がサクセスフルな会社になっていく。そういうのが見えてきたら、やっていることが正しいということです。その証明が彼らの目の前で、現実で起こってこなければいけなかったです。

そのためにはカルチャーを変えなくてはいけなかった。僕らは機械を売っているわけじゃないし、製品を持っているわけではない、生産設備があるわけでもないのです。

サービスというのは生産設備がなく、貯められない。生産と消費が同時に起こってしまうという性質がある。だから我々が売っているサービスのクオリティというのは、各エンジニアがお客さんとどう口をきいているか、コントロールセンターのオペレーターがどうやって電話を取っているか。その一挙手一動のサービスクオリティ、それしかないわけですね。

このサービスの質を変えるにはそれに従事している人間のマインドセットを変える以外に手はない。一人一人の考え方を変えていく、これ以外の近道はないです。けれども一回作ると他の人がまねしようとしたって1年やそこらでできるものではない。だから競争力があるのです。

他の会社もまねしようとしているけれど、もともとそういうサービス理念がないから、本当の意味でいいサービスを売って、自分たちの仕事は安全を提供することだと思って経営している経営陣はいないです。だから本当の意味でそのものは生まれてこないし、表面だけのキャンペーンか何かやって「もうちょっとスマイルしましょう。」「いいサービスを売りましょう。」とリップサービスはやっているけど、魂がないですよ。本当に魂があって、「お客さんを守りたい。」「我々の仕事は社会を安全にすることだ。」という思いでやっている会社はなかなか出てこないです。

日本のサービス産業の会社も国際化している企業は意外と少ないです。これは一言で言えば「ものすごい大変」だから。今言ったような理由で、マスを相手に実体のあるサービス、額に汗する実際のサービスを売っている会社で国際化しているところは実はほとんどないです。

 

日本のサービス産業は世界一

日本のサービス産業は世界一です。海外では電車は時間通りこないし、約束守らないし、それが一般的なことですよ。日本のあらゆるサービス産業の質っていうのは世界一だということを日本に住んでいる人は気付いていないです。ずっと中にいるから。外に出た人だけが気付くんだけども、この日本人が当たり前と思って毎日普通に安い値段で受けているサービスが実は世界ではトップレベルなんですね。

でも、そのレベルをそのまま海外で実現しようと思ったらそれは不可能です。日本人がやっているわけではないから。だけれども、この日本のサービス産業の理念でそれに近いもの、より良いものを海外で提供できれば絶対勝てます。

これは日本に住んでいる人は気付いていないですね。でも今言ったような理由でサービス産業を国の外に輸出するというのはすごく大変です。1年とか2年という期間ではできないし、10年とかの期間で戦略を展開していかないと実現しないことだからです。短期的な投資志向の会社とか、いわゆるファンドなんかがビジネスを開こうとしても、近視眼的なビジョンではできないです。あと、日本で成功している商品は海外でも売れるはずだと販売網作って生産拠点を作って、2~3年でわっと普及させる人達もです。

こういう人達の視点とは全く違う、より長期的な戦略がないとサービス産業というのは国際化できないです。

 

We are Japanese company.(私達は日本の会社です。)

日本人が作るものはきちんとしている、クオリティが高いというイメージは日本人が思っている以上に海外で強いです。日本人の強みというのを日本にいる人は過小評価しているのではと思います。

自虐的な報道もあって萎縮している人達もいる。それは大間違いです。世界のマジョリティの人は日本に対する敬意がすごく高いです。ブラジルに行くと、日本人の事を「ガランチード」と言うんですよ。「信頼すべき人」と言う意味で、「あの人達はガランチードだから」と日本人は言われています。これはブラジルに移民した日本の人達が半分騙されてひどく扱われながらも決して裏切らないで、だまくらかさないできちんとやってきた歴史があるからです。今でも日本人が行くと「ガランチード」と言われます。極めて高い信頼度があって、それに似たような信頼関係が世界のどこでもあるんですよね。

私もイギリスでビジネスをしていてよく感じます。例えばこちらの銀行相手に大きなビジネスを取りにいく時や、政府の重要な施設の大きな仕事を取りにいく時に、我々の幹部は最後に「We are Japanese company.」と言います。行間で何を言っているかというと、「我々は日本の会社だから決して嘘をついたり不誠実なことはしませんよ。最後にどんなことがあっても逃げたりしませんよ。」ということです。

こういうことを言っているわけで、お客さんが「そうですね。」と頷いているのです。そういう風景に私は何回も巡り合っています。これはこちらで仕事するまで知らなかったです。イギリスというのは歴史をさかのぼれば戦争を経験しているわけで、一部は反日的な感情を持っているのではと想像していましたが、決してそんなネガティブではなくて、「信頼すべき誠実な人達」というイメージがどこに行ってもものすごく強いです。

これは決してここ10年20年でできたものではなくて、戦争のずっと前から海外に飛び出して企業の駐在員だとか外交官だとか、開発支援とかJICAとか、色んな形で世界に飛び出してやってきた日本人の先人達が培ってきた賜物だと思います。彼らが外国で日本人に対する気持ちを作った。これは大変な価値があるわけであって、日本の人達はわかっていないと思います。この信頼、ブランドは大変な価値があります。仕事をするうえで大変プラスになります。

あと、この会社はローカルの会社をいくつか買収しているのですが、例えば契約件数が1000件ある中堅の会社を買収しましたと。そうすると1000件のお客さんに対して通知をしないといけない。「明日からあなたの契約は会社が買収されるので、セコムという会社がサービス提供会社に変わります。」と。その時に元の会社のオーナー社長の名前と新しい社長の私の名前で通知を出す。来たばかりの時は、「お年寄りのイギリス人もいっぱいいるし、家の鍵も扱うような仕事もしているので外人になったらよくないんじゃないか。Minoru Takezawaっていうふうにサインしたら明らかに外人だよね。外人に買われたと、日本人に買われたとよく思わない人がいるんじゃないか。」と非常に心配しました。それで解約になったら困りますしね。「できればローカルなイメージを出すために事業部長の名前で挨拶状出したほうがいいのでは。」と提案しました。

ところがね、「社長、そんなことない。日本人の会社になったということは極めてプラスにお客さんは思うはずだし、日本人の会社になったらよりいいサービスが期待できそうだ、裏切られなさそうだ、だまくらかしたりしなそうだ、こういうイメージがある。ここは社長の名前Minoru Takezawaで出したほうがいい。」ってみんなが言ったのです。それでその1000件の通知全部に私がサインして出したら、彼らの言う通り、解約は一軒もなかったです。

これらは例だけど、営業しているうちに色んな意味で日本人に対する気持ちっていうのは非常にビジネス界でプラスになると感じています。今後どんどん日本の企業が外に出て行って、この世界でできている日本人に対するリスペクトや敬意を高めるような動き、行動の仕方をして、それで実際にそれぞれの強みを使って貢献できて、ますます尊敬されると。商売しながらですよ、寄付するのではなくて。商売して利益を上げながらも各地域の社会に貢献する、それぞれの国の価値を高める、助けになっていく。そういうのを色んな企業とか官の人達とか、みんなでもっともっとやっていってほしいです。

 

日本の若者へ

そういう意味で日本の若い人達が外に出たがらないというのは大きな心配ですね。日本企業のトップの人達と話しても「若い社員が駐在したがらない。」「若い日本の人達が外に出たがらない。」とよく聞きます。日本の企業の中でもまだまだ海外班というのは主流ではないですからね。必ずしも国際路線に行った人が得をするという組織ではないというのはあるかもしれませんが、よく聞くので非常に心配です。

ぜひ海外にどんどん出て行ってほしいですね。世界がこれだけあるって見ないで死んでいったらもったいないです。世界に飛び出して働くというのは非常にエキサイティングだし、非常にわくわくすることです。一度飛び出して経験してみる、それで嫌だったらやめればいいんだから。出ないでドメスティックだけでいくのはもったいないです。

 

 

【編集後記】
日本より歴史の長いイギリスのセキュリティ業界で、日本の同業界のパイオニアとして培ってきたノウハウや考え方が大きな価値として認められつつあることに、同じ日本人としてうれしくなった。日本のサービスに自信と誇りを持ち、10年以上にわたって試行錯誤を繰り返したうえで語る社長の言葉一つ一つに魂を感じた。

 

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